ポルトガル
大統領選
公衆衛生、職、経済への対応が不可欠
左翼ブロック
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危機下の反極右
現職楽勝支える
左翼ブロック全国委員会は、マリア・マチアスの真剣な取り組みと献身性に歓迎の言葉を贈り、危機への対応を確認する点で、また極右の攻撃性と闘う点で、社会主義、フェミニズム、反レイシズム、そして環境保護のキャンペーンがもつ重要性を強調する。マリサは、勇敢で十分に焦点を絞ったキャンペーンを率いたが、その結果は、立候補とその目標の本当の影響力を少しも反映していなかった。
キャンペーンの可視性を引き下げたパンデミック危機の真ん中では、労働立法に関するトロイカの引き続く影響力であれ、私有化された医療企業に与えられた保護であれ、ユーロ圏周辺の諸国の犠牲による銀行集約のEU計画であれ、マルセロ・レベロ・デ・ソウサの大統領職務が後押しした障害を暴き出すことはもっと難しかった(注1)。逆に、「ゲリンゴンカ」(注2)政府の年月は、レベロ・デ・ソウサに、安定の保証として一定の信用を与えることになった。アンドレ・ベントゥラとの衝突は現大統領を、極右の成長を阻止するある種の緩衝物のように見せた(注3)。
第1回投票での彼の楽勝は、右翼のより穏健な有権者によって、しかし何よりも社会党(PS)の支持者によって、および左翼の支持者まで加えて、可能になった。アナ・ゴメス(2位になったが、獲得票は、5年前のアントニオ・サムパイオ・ダ・ノボア〈注4〉が獲得したものよりもはるかに少なかった)の支持票、およびジョアオ・フェレイラの支持票(2016年のエドガー・シルバの票と同等の)もまた、先の読み方を確証している(注4)。その結果は、さまざまな調査や世論調査と並んで、左翼ブロック支持者と自らを認めている者の多数も、マルセロ・レベロ・デ・ソウサに投票することを選択した、ということを示している。
この高度に2極化した情勢の中で、いくらかのPS支持層から票を受け取るとの期待を表明してきたジョアオ・フェレイラは、PCP(ポルトガル共産党)支持者の票をすべて獲得することもできなかった。驚きではなかったが、特に2016年にサムパイオ・ダ・ノボアの立候補のために決起したPS支持者のほとんどは今回、大統領再選に集中した。PS内部で内部的緊張を利用しようとしたアナ・ゴメスは、彼女の党の全く僅かな部分しか集めなかった。この大統領選は、2021年国家予算に関する左翼のさまざまな立場について賞讃するか罰するかの形で、人々の判断を伝えるだろう、と期待した特にPS内の人々の希望は確証されなかった(注4)。
極右撃退可能な
本当の闘いとは
この選挙は、右翼のつくり変えを確証した。CDSの崩壊とPSDの地盤喪失に基づき、これらの政党のもっとも反動的な部分は彼自身はPSD出身であるアンドレ・ベントゥラを軸に結集した。ベントゥラはドナルド・トランプの戦略をまねようとし、政府に対して焦燥感を募らせている貧困化した民衆を、また社会的諸権利を潰すことを期待しているブルジョアジー諸層をも引きつけるために、今回高まった可視性を利用しようとすると思われる。
しかし「反システム」と想定されたこの政党は早くも、権力をもつPSDの諸々の地位を見込みつつ、それがどこに向かおうとしているかをはっきりさせている。開票日夜ルイ・リオは、政府に向けたPSDの計画にはチェガも含まれる、と認めた。ところが右翼は、それが何らかの決定的立場をとることに余地を与える多数確保からは、遠く隔たっているのだ。逆に、PSDはチェガを正常なものにしようとする中で、自身を、極右を抱える政府という展望を受け入れると思われる有権者の中核部分に狭め、アントニオ・コスタを政治の中央を代表する並ぶもののなき者に残すことになった(注5)。
大統領選結果は、危機にある政治システムを示す代わりに、伝統的右翼の再形成を示し、それには二大政党の政府計画が含まれている。
このことを背景に左翼ブロックは、優先的に取り組まれる必要のある危機は、パンデミック危機と社会的危機だ、と強調する。極右との闘いが政治的舞台で中央を占めることを許してはならない。左に向けたオルタナティブをはっきり表現すること、および危機に立ち向かう対応を要求することによってはじめて、われわれは極右をそれが値する周縁に退けることができる。
社会的危機への
対応が優先課題
ポルトガルはコヴィッドの最初の感染例をほぼ1年前に確認したが、今やパンデミックのもっとも決定的な局面に達しようとしている。「国民医療サービス」(NHS)に対する圧力、および社会と経済の危機は、悪化し続けている。パンデミック危機は一時的なショックではない。つまり、公衆衛生の惨状は長期化し、その影響は今後構造的になるのだ。
左翼ブロックは、この危機に対する左翼的対応を推し進め、この日々の中心的課題、すなわちNHSの強化、社会的危機への対応、雇用と経済の回復に向けた投資、に基づいて政府に立ち向かっている。ポルトガルで今も優先性として残されているものは、政府による2021年予算から除かれた先のような諸方策なのだ。
社会的部門や私有部門を徴発すること、現存の医療能力すべてをNHSの組織と監督の下に置くこと、これらが、コヴィッド患者と非コヴィッド患者に優先的ケアとして対応し、それによって急を要するケアへの平等な権利を確保する点で、本質的になる。
利用可能なスタッフと施設のこの統合には、NHS内での職歴に与えられる価値と投資における増大が伴われなければならない。これが行われない場合、NHSに加わるパンデミックの影響は克服されず、NHSの不可逆的な劣悪化に導くだろう。そしてこれこそが、私有医療諸グループの計画だ。それらは、自らを守ろうと努め、NHSの現在の諸成果の中の良質な部分とその資金を吸収することを期待しているのだ。
国立の学校諸々における投資欠乏と構造的な問題に対する回答の不在もまた、パンデミックに対する対応の弱点だ。無期限のリモート教育への回帰は、コンピュータ配分の約束に関する能力の下に政府によって準備が整えられたものではなかった。したがってそれは、不平等を悪化させる怖れがある。
社会的諸施設の閉鎖、公的ではないケアに対する支援の欠乏、そして公共サービスの脆弱さの組み合わせが、はなはだしい比率で女性に打撃を加えている。女性はあらゆる危機に不利な立場で入り込んでいる。つまり彼女たちは賃金が低く、より不安定であるが、ほとんどがコヴィッド19との戦いの前線に、またこの危機で最大の影響を受けた部門の中にいるのだ。攻撃する者とその犠牲者が今絶えず共に暮らし続けているという事実は、より多くの支配力を行使するという、また虐待を報告し助けを求める機会をより少なくするという、理想的な条件を与えることになった。最新研究からのデータは、より悪化している現実さえ露わにしている。つまり、犠牲者の34%は、パンデミックの中で初めてドメスティックバイオレンスを受けたのだ。
周辺化されたコミュニティの人々、移民、またレイシズム的に差別された人々もまた、はなはだしい比率で危機にさらされ、悪化した暴力を付随してその作用に苦しんでいる。危機と闘う方策は構造的不平等を考慮しなければならない。
EU指示による
予算拘束を破れ
社会的支援、職の保護、さらに不可欠な公共サービスの強化が、社会的で地域的な結合を推し進め、貧困と闘う上で中心になる。不安定な雇用の影響はこの数ヵ月で悪化させられてきた。人口の大きな部分が、職の保証もなく、失業手当の延長を利用できないまま、経済的で社会的な嵐に直面しつつ、特別支援に付された条件を理由にその制度から排除され、あるいは貧困ラインをはるかに下回る支援の支払を受けている。
社会的保護の分野における国家予算の逆戻りに対する左翼ブロックの批判の正しさは今や明白だ。より包括的な支援と貧困ラインを上回る最低水準を備えた、社会的支援の即時強化、および社会保障における新たな目標の必要は、この国と左翼にとってある種基本的な要求だ。
この国の諸困難は、危機に対する限られた対応によって悪化させられている。今日われわれは、パンデミックで最悪の打撃を受けたEUの国の中に、しかしまたそれに対する対応では最低の投資国の中にいる。2020年の赤字は、予想よりも小さかった。政府が危機に直面しても、2020年に予算化された35億ユーロを支出しないことを選択したからだ。2020年にまた2021年に向けて設定された支援の不足と危機の影響を前提とすれば、先の選択は怒りを呼ぶものだ。予算の拘束は今や極度に不謹慎だ。つまり、低い投資が危機の力学を加速し、経済回復を妨げ、それを遅らせている。
公衆衛生保護に
全主導力発揮を
左翼ブロックはその活動を公衆衛生を守るために求められた諸条件に合わせてきた。しかしこの適応は、活動の低下や支持者の参加の低下を意味していない。 全国委員会は地域支部全部と共に、大統領選を評価し、現在の政治情勢に対する左翼ブロックの介入における優先課題を討論するために、支持者総会を推し進める予定だ。
全国委員会は、来月開催される地方大会組織化を政治委員会に委任し、地方選に向けた戦略と優先課題に関する論争を呼びかけるだろう。
全国委員会はさらに、新規党員加入キャンペーン開始をも決意している。大統領選の余波の中で、多くが左翼ブロック加入を決めた。この補強の歩みは拡張が可能であり、またそうされなければならない。
全国大会開催とその準備を含めて、あらゆるイニシアチブが、公衆衛生の保護確保のために合わせられなければならない。
左翼ブロックは、自死幇助の非犯罪化に対する議会の承認を歓迎する。~に対する恐れと原理主義のキャンペーンに反対して、寛容と各個人の権利尊重を求める幅広い統一が、議会で勝利を収め、それ以上にこの件ではポルトガル社会の大きな多数を獲得した。このすべてにおいてジョアオ・セメドの役割が基本になった(注6)。彼の模範的な闘いは、左翼ブロックが関わる闘いすべてにとっては一つの挑戦対象になっている。
▼左翼ブロックは、元毛沢東主義派のUDP、共産党から離党した潮流であるポリティカ]]T、第4インターナショナルポルトガル支部のPSRからなる連合として、2000年にポルトガルで形成された急進左翼の政党。この党は今、国会とEU議会に被選出の代表をもつ認知された政党になっている。
(注1)マルセロ・レベロ・デ・ソウサは2016年以来ポルトガルの大統領だった。彼はポルトガルの主な右翼政党であるPSD(社会民主党)の長年の党員だが、彼の大統領任期の間党籍を凍結した。彼は、PS首相のアントニオ・コスタと並んで大統領としての職責を果たしてきた。そして、2021年1月24日に60・7%の得票率でポルトガル大統領に再選された。
(注2)「ゲリンゴンカ」(文字通りには奇妙な仕掛け)政府は、2015年11月に始まった。その時アントニオ・コスタがPS少数政府の首相になり、左翼ブロック、PCP、グリーン・エコロジストの議員から、連立ではないが議会での支持を受けた。この編成は2019年に壊れた。
(注3)1月24日に極右政党のチェガ党の候補者であるアンドレ・ベントゥラは11・9%で3位になった。それは、これまで極右がポルトガルで獲得した最多得票だった。
(注4)アナ・ゴメスは、元PS議員であるが、今回の大統領選では無所属として立候補した。彼女は13%で2位になった。アントニオ・サムパイオ・ダ・ノボアは、2016年の前回大統領選で無所属として立候補したが、同時に大量のPSの支援も得、ほぼ23%を獲得した。PCP候補者のジョアオ・フェレイラは、3・95%を獲得した左翼ブロックのマリサ・マチアスを僅かに上回る4・3%を得た。2016年のPCP候補者のエドガー・シルバは3・94%を得た。
(注5)アントニオ・コスタは、PS書記長であり、2015年以来ポルトガル首相。
(注6)ジョアオ・セメドは左翼ブロックの指導者であり、自死幇助の非犯罪化に向けた最初の法案を提出した同ブロック議員団の1人。彼は、ガンに対する長い闘いの後、2018年6月に死亡した。(「インターナショナルビューポイント」2021年2月号)
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